人気ブログランキング | 話題のタグを見る

幻想の荒野から

「琥珀のひとみ」 ジョーン・D・ヴィンジ著 創元SF文庫

 SF短編集なのですが、
 おすすめは最後に収録された「錫の兵隊」です。
 
 他の収録作は、質にけっこうムラがあるので、
 あんまりお勧めはしませんが… 
 この話はすきです。

 お気に入りの一曲のために、CDアルバムを買うようなものかもしれません;
 私はそういうことを結構やってしまうんですが、
 それであんまり後悔もしていないのです…

■「錫の兵隊」 

 SFというか、SFを背景にしたラブストーリーです。
 宇宙飛行士、サイボーグ、星の海、といった典型的なSFモチーフを、
 ヴィンジは詩的なイメージに昇華して物語に組み込んでいます。
 水銀のような目をした少女、
 紫水晶や瑪瑙のかけらが散らばる砂漠、
 とつぜん降り始める暖かい雨。

 事故により身体の半分がプラスティック化し、
 ほぼ永遠の命を持つ115歳の男マリス。
 亜高速飛行のためにほんの少しずつしか年を取らず、
 25年ごとに地球へ戻ってくる少女ブランディ。
 この二人の、ちょうど100年間に渡る出会いと別れの繰り返し。

 切なくも暖かい結末です。
 私としてはこれはまぎれもなくハッピーエンドだと思っているのですが…
 
■余談ですが

 ちなみに、作者のジョーン・ヴィンジは、
 以前紹介したヴァーナー・ヴィンジの元妻です。
 サイバネティックにSF宇宙を組み上げていくヴァーナーに対し、
 神話や音楽といったイメージを重層的に重ねながら世界を作っていく
 ジョーンの作風を見ていると、
 お互いに相容れなかったんだなあ…と思ってしまいます。
 ちなみにジョーン・ヴィンジは編集者と再婚して幸せに暮らしているとのこと。
 よかったですね。
 
 今では夫より人気のあるSF作家、ということですが、
 その割には翻訳が出てないのが謎です。
by gomadrop | 2007-07-06 03:14 | 幻想の荒野にて
<< 「天の十二分の五」 メリッサ・... 「プレイバック」 レイモンド・... >>



好きな小説(SF、FT、古典、その他)

by gomadrop