幻想の荒野から

「小鬼の市」 クリスティーナ・ロセッティ著

 久しぶりに「お気に入り恋愛小説のことでも書くか!」と思っていたのですが、
 深層意識が「あれを書け…書け…」と言ってるので、
 なぜかこんなものを取り上げてみました。
 
 こんなものを書いて大丈夫か? と思うほど、
 問題だらけの詩なんですが。
 いろんな意味で。

■暗喩に満ちた仄暗い詩

 女流詩人による、1862年に書かれた物語詩です。
 日本語にしてほぼ32ページほどの詩。
 
 荒俣宏氏が訳したバージョンが比較的手に入りやすいと思いますが、
 私はほかの本に載っていた訳のほうがお気に入りでした。
 でも、その本が今部屋のどこかに埋もれてしまって見つからないので…(涙
 荒俣訳のほうは、「魔法のお店」ちくま文庫版に載っています。

 一読して、ロマンティックかつかなり怪しい雰囲気。
 荒俣氏は「健気な姉妹のすばらしい魔法物語」なんて言っていますが、
 まじですかという感じです。
 確かに荒俣訳はかなり清潔感があるので、それでいいのかもしれませんが、
 実物はもっと粗野でエキセントリックな詩だと思います。

以下ネタばれ、引用は荒俣氏訳より

■小鬼の呼び声

 夏の夜、川の土手で小鬼たちが若い娘たちをおびき出す。
 あまったるく汁気の溢れた果物を売りつける声をきくと、
 妹はうずうずし、
 姉は赤く染まった顔を伏せる。

 妹はついに制止を振り切って小鬼たちの間に飛び込み、
 禁断の甘い果実を吸ってしまう。
 (食べたんじゃなくて、あくまで吸ったらしい)
 翌日の夕方、再び二人は土手に行くが、
 姉の耳には小鬼の呼び声が聞こえるのに、
 すでに禁断の味を知ってしまった妹は二度と小鬼を見ることができない。
 妹はあの味に恋焦がれてやせ細っていくのですが…

 別バージョンの訳ではずばり、
 この詩のテーマが「性愛」だと解説しています。
 確かにこのくだり、性に対する豊潤な隠喩とイメージが交錯しています。
 嫌らしい小鬼たちの声が、鳩のように甘く誘惑的だったり、
 果物の「汁」に対する執拗な繰り返しのイメージ、
 お金を持たない妹に要求されるのが「髪」、
 つまり自分の一部だということ。

■失恋

 「炎のように燃え上がり」、夜を焦がれていた妹が、
 二度と小鬼に呼ばれることはないと知ったとき。
 それでもひたすら耳を済まし続けた妹は、
 食事も咽喉に通らず、眠ることもできず、
 日に日に弱っていくのですが…
 一夜の火遊びで捨てられた、という表現でいいのかどうか分かりませんが;
 なんかそういう状況ですね。

■姉による救済

 そこで姉が、妹にあの果物を買ってきてやろう!と
 小鬼たちのもとに向かうのですが、
 集まってきた小鬼たちが最初っから、
 「むすめを抱いて キスをした。
 ぎゅっと抱きしめ 愛撫した」
 というから、もう容赦ないですね…;
 しかし姉は、妹のように自分を投げ出すような真似はしない。
 あらかじめお金を用意し、「果物は妹に持ち帰るからここでは食べない」
 と宣言します。
 これはあきらかにルール違反なので(何のルールだ??!)、
 小鬼たちは怒って、無理やりその場で食べさせようとします。
 「衣を引きさき 靴下よごし(中略)
  手をとらえて 果実を口に押しつけた」
 というから凄い。
 ていうか、実際の描写はもっともっと長いのでそれがまた凄い;

 これに対する姉の反応。
 「流れにもまれる百合一輪―(中略)
  貴き 無垢なる都のように」
 「けれど心には笑みがうかんだ
  果汁がしたたり顔を濡らし
  えくぼにたまり 首すじをつたい
  腐乳みたいにふるえるのがわかるから」
 これもなんというか…凄いです、お姉さん。
 絶対落ちない、穢されないというプライドの微笑み。
 そして余裕をもって小鬼たちの悪あがきを眺めているという…
 
■この結末は何…?

 しかし、この後にまた問題の箇所が待ち構えてます。
 諦めた小鬼たちから開放された姉は、走って妹のもとへ帰ります。
 第一声が、これ。
 「ローラ、キスしてくれないの?(中略)
 あたしの傷なんか気にせずに
 だいて キスして 果汁を吸って(中略)
 あたしをおたべ おのみ 好きにしていいのよ
 ローラ さあ心ゆくまで」
 うわっ…;

 妹の反応。
 「ひどい恐れと痛みにふるえ
 ローラはかつえた口で 姉にキスしてキスした
 くちびるが灼けただれはじめた
 果汁の味は苦よもぎ
 彼女はそのごちそうを呪った」
 この後、ショック症状でトランス状態に陥った妹は、
 ゴーストダンスのような激しい踊りのあげく、
 毒気が抜かれて回復します。
 
 そして、結論。
 「安らかなときも嵐のときも
 姉妹にまさる友はないのよ
 沈んだときには元気づけ
 道にまよえば連れもどし
 ころんだときはたすけ起こし
 耐えしのぶときには力になるのよ」
 
 えっ…?
 その結論でいいの?

 なんか取ってつけたような結論じゃないですか?
 なんかさっきまで凄いことしてませんでしたか?
 あれ? 気のせい?

■それでですね
 
 まあ、それはそれとして(←それでいいのかよ!)、
 私はこの詩が好きです。
 退廃的かつ暗示的、
 ロマンティシズムに上品なエロティシズム、
 さらにシャーマニックなどろどろもあり。
 女性好みの詩だと思います。
 ただ、ちょっと人に勧められない。だって…; 
 
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by gomadrop | 2007-08-12 20:57 | 恋、または愛情
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